『鑑定士と顔のない依頼人』

『鑑定士と顔のない依頼人』

原題:La Migliore Offerta

(英題:The Best Offer)

2013年 イタリア 131分

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ

音楽:エンニオ・モリコーネ

 

ジュゼッペ・トルナトーレの初デジタル作品。

 

優秀な鑑定士だが、頑固で潔癖なヴァージルという男の元に不思議な依頼が来る。依頼人はクレアという女性で電話でしか話せないが自分の屋敷にある両親の遺した骨董品を査定して欲しいというもので、最初こそ不審に思うが、 次第にその姿の見えないクレアに惹かれてゆくというお話。

 

プレーンながら真贋が幾重にも重なっており、物語を通して鑑賞者と監督との間に駆け引きが発生するような作品だなと思いました。ストーリーの中で懐疑心があれば鑑賞者も監督に懐疑心がわき、よって興味を惹かれ、魅せられます。

 

結果的には騙されるんですけど、その過程がモザイク画のように綿密で美しく、初鑑賞時はずっと作品とにらみ合っていました。

人と会うのが怖いというわりには、電話が終わるとアッサリ隠し部屋から出てきたり、長いこと人と関わらずに生きてきたとは思えないほど他者との接触にメキメキ順応してゆくクレアには違和感しかないし、クレアの屋敷で拾った歯車などの部品から貴重なからくり人形を再現するヴァージルの友人の男の「愛が芸術なら偽物もある」という言葉はヴァージルに向けられているのか鑑賞者に向けられているのか気になるところだったし、そもそも、ヴァージル自身、競売品の中に気に入った絵画があると、忍び込ませた古い友人ビリーに買わせ、確実に自分の物にするというクセもあるし、屋敷の前にある喫茶店の窓際にいるやけに記憶がよく、ことさら数字に長けている女性…。

その他の登場人物も含め、みんな、なにかしら引っかかりを残すんです。

 

で、どのパターンで来るかなー、いや、でも、しかし、こういう人が最終的に愛を知るというのも、この怪しさの中で意外に定石かなー、なんて、間違いたくないために答えの枠を複数確保する私のイヤらしいプライドも再確認させてくれました。

でも、そんなある意味での情報戦の中で己の経験の中から答えを導き出そうとして視野がかえって狭くなっちゃって惑わされるんだと思います、ヴァージルも。

「贋作者は印を残す」の言葉通り、印はあるのに、見落としちゃうんでしょうね。

それから単純に恋は盲目、堅物でも欲望に勝てなかったんですかね。信じたかったんや!信じたかったんや!と。

いやぁ、ちょろいね。結果がこれですよ。

 

ラストのプラハで入った思い出の店で「連れを待っている」といったヴァージルは時計を見ながら無重力を泳ぐように、美しくつややかな想い出を反芻して何を思うのか、その姿は序盤登場時とは全くの別人のようにヨレヨレ。

 

これも注目と言うべきヴァージルの“自分を見つめる女たち”コレクションである絵画の数々。

芸術を愛し、芸術で商い、芸術に裏切られた彼の顛末を彼女たちは嘲笑うだろうか、哀れむだろうか…。

 

で、この映画は芸術であったのか?

それは私だけの感想と言うことで。

これを目にしてくださった方の中にも自分だけの感想を持っていただきたいところでもあるので。

 

オークションシーンの自分も参加させられているような緊張感も見所です!

 

以上、『鑑定士と顔のない依頼人』についてでした。