『完全なる飼育』
英題:The Perfect Education
1999年 日本 96分
監督:和田勉
契約している配信サービスの見放題コンテンツにありまして、ええと、スケベ心がなかったかと言えば、嘘はなるべくつきたくないので、まぁ、ありました。
しかもですよ、ここは言い訳じゃなく、小島聖さんだし竹中直人さんだし、これ、私、観るしかないなと。
でもやっぱりこれも素直なところ、作品を知ってても借りるのは抵抗あるんですよね、で、ちょっと家族で観る物ではない映画がなぜか配信サービスには多いので、みんな同じ気持ちだからかな、と思っています。
そんな『完全なる飼育』、実話がベースになっているそうでして。
女子高校生を誘拐して鞭・鞭・飴・鞭・飴・飴と使い分けて徐々に自分に依存させてゆくお話です。
まず、これが良かったセリフ。
とっととレイプしなさいよと。と自分を拉致した男、岩園に詰め寄り、あなたは処女でしょう、こんな事で良いんですか?と答えられ
「良くはないけど帰りたいから言ってるのよ!」
といった邦子の “良くはないけど” の言い方が、本当にやるならさっさとやって解放してよ!!!という苛立ちと諦めからくるヤケクソなトーンが非常に心に響き
「この状況で、もちろん絶対良くはないけど、もうこの際そうだよね!」とわからないでもないというのは適切な言葉ではないかもしれないけど、少々の共感を覚え、不謹慎ながら、フッと笑いが漏れてしまいます。
この一言を聞きたいために何回も10秒戻しした部分です。
最初こそ手錠をかけられ、岩園の外出時には足も縛られ口にはガムテープと、立派な監禁状態なのだけど、そういった恐怖やストレスを与えるのも、食事を与えるのも、会話や会話に伴う笑いを与えるのも岩園だけであるとなってくると、段々と心…は開いていたかな?とにかくそれなりに過去のことや家族のこと、他愛のないことを語り合うようになる。
とはいえ、これは岩園が拉致といった暴挙に出るものの、意外に単純な乱暴目的ではなく、愛のある心の通い合った完全なセックスをしたいという理由で“監禁”ではなく“飼育”を目的としていたからこそのこの展開なのだろう。
邦子の望むことは大方応じてくれるし、食事も好きなものを聞けば大急ぎで買ってきてくれるのだ。
そんなことの繰り返しの中、時折出かけると言って、邦子をまさに観察するようにアパートが望める廃墟から冷静な目つきで望遠鏡でのぞく姿はやはり変質的なものを感じます。
岩園の住む安アパートには、学校にもろくに行かず、煩悩まみれの毎日を過ごすパジャマの上着をズボンに突っ込んで着ている大学生の隣人の津田、階下にセールスに出かける前には目元に化粧を施す、健康に良いという怪しい水のセールスマンの森山、部屋で刀を振り回し暴力喫茶で働く女みどり、競馬場の清掃をする岩園も話したことのない川又にプロボクサー志望の若い男を可愛がる未亡人の大家さん咲子。
と、みんなちがって、みんなダメ、と言いたくなるような、くどいくらいに個性的な面々。
それを演じるのが、北村一輝さん、監督業が有名な塚本晋也さん、泉谷しげるさん、渡辺えり子さんなのだから、その辺は察しがつくと思います。
“玉滴”なる怪しい水を大家さんに差し上げる森山、謎の腹痛で病院に運ばれる大家さん、それを森山の配った水のせいだと思い込み森山を殴りに行くボクサーの卵野口であったが、実は牡蠣と何かの食べ合わせだったのを謝りに行くと、川又が介抱しているところだったりのドタバタぶり。
そんな安アパートにはシャワーしかなく、高校生、しかも女の子である邦子を気遣ったのか、ある日、岩園は温泉旅行を計画してくる。岩園との暮らしもすっかり当たり前のようになってきた邦子は素直に喜び、いざ旅行へ。
が、ここで邦子が思いがけない行動に出る。
手錠ごっこと称し、いつもとは逆に岩園に手錠をかけ、遊びだしたかと思いきや、着替えると黙って旅館を去ろうとする、どのくらいの時間なのかちょっとわかりずらかったのですが、多分かなりの時間が過ぎて戻ってくるんです、旅館へ。
これね、出て行ったのも帰ってきたのも邦子の真意な気がします。葛藤、脱力、執着、虚脱、退屈、虚無。
結局、人間の精神力なんてはかなくて雛の刷り込みではないけれど、目の前の他人が他人でしかも憎むべき対象であっても、いつしか見慣れてくると信用の対象になり得ることもあるのかなと。すべてがすべて、このケースに当てはまりはしないだろうけど。
そんな脆く、明と暗の狭間で自分の今取っている言動は自分の自我からのものであると無意識に自分自身を勘違いさせてなんとか生きていられる人間もいるんじゃないかな?というか、普通の苦難に直面しているだけでも、こんな感じで生きている人は結構多いかもしれないなと感じました。
で、「死んじゃったらいいけど、首が一生回らなくなったらいやね。」
という旅行中のものではないセリフがあって、ここにかかってくるのかなぁ、と勝手に思っています。この状況の中、発狂できたらいっそ楽なのに、と。
この旅行から帰ってくると、二人の関係はいよいよ深いものになり、それは毎夜毎夜、最初は壁にコップを当ててその様子を盗み聞きしていた隣人が、いい加減いい迷惑だと思うほどに、というか、女の子は一度知ると一気に成長するんですね…なんて、なんか私も言いようがないですね…(苦笑)
でも、そんな日々がよりよい明日、明るい未来に繋がるわけもなく、邦子の保護並びに岩園の逮捕という形で終わります。この件で一番かわいそうなのは隣人の大学生。100万円の懸賞金付きで捜索願が出されていると知り、警察へ情報提供に行くのですが「数分前に保護しました。」と言われてしまうのです。あんなに眠れない夜を過ごしたのに!(笑)
(今回、これを見てくださった方が、この映画を観られる環境にあるのかわかりませんので結論まで書いてしまいますね。)
その後、邦子は事情を警察に聞かれてもあっけらかんと「誘拐されたんじゃなく私がついてきました!」「楽しく同棲してました!」「楽しくセックスしてました!」と答えるばかりで、その明るさに気味が悪いとさえ思うほど。
一方、岩園は「薬品をかがせて部屋に監禁しました…。」と正直に答える。
その後、弁護士との面会で「最高の夢を抱いて死刑になりたい。」と言うが、今回のケース、しかも被害者であるはずの邦子のその証言では2~3年ほどだろうと言われてしまい呆然と何かを話し出すが、ここは音がないので雰囲気を感じ取るだけの演出。
邦子もランニング中に拉致された川沿いの現場を見つめて淋しそうな表情を浮かべ…というラスト。
岩園にとっては飼育という意味では大成功だったが、非常に健やかに、不健康に育て上げられましたとさ。
これを心理学ではストックホルム症候群と呼ぶのだそうですが、心というものはどこへ向かってゆくのかの本当にわからないなと思いました。
ちょっと岩園さんには似つかわしくない赤いコートの使い方、良かったなぁ。
以上、『完全なる飼育』についてでした。